良いことも悪いこともある

「寝る前に、私のおっぱいをちゅうちゅう吸いました。6年生になってからは、私のお腹の上に乗って陣痛の真似をし、『生まれた』と言って『おぎゃあ』と泣きました。私は医師ですから、虐待などでひとりの養育者に育てられなかった子が甘え直しを求めることがあると知っていたので驚きはしませんが、目の当たりにして本当にそうするのだと実感したのです」

しかし周囲はそうはいかない。Nさんが「おぎゃあ」と泣いた後にいつも哺乳瓶でお茶を飲む姿を見て夫は「大丈夫か、小6だぞ」と不安げだった。それでも中学の入学式の日になると、ぴたっとやめた。

「里親をしていると、良いことも悪いこともある」と吉竹さん。

「良かったのは、私自身の視野が広がったことです。医師や教師が多い家に生まれ、小さい頃から親の価値観を押しつけられてつらいこともありました。だからNには素直に、好きなことをしなさいと言えた。実子ならそうはいかなかったかもしれません」

一方で、大変な経験もしている。Nさんの実母との関係や、学校との連携の問題だ。Nさんには実母がおり、吉竹さんは預かって養育する立場である。そのため原則的には髪を切るのも、予防接種を受けるのも、学校のホームページに修学旅行の写真を掲載するのも、些細なことまで実母の許可が必要で、里親は決定できない。