はて、私はなにが好きなんだっけ?

会社員時代、私は苦労したぶんだけやり甲斐を感じられるのが仕事だと思っていた。しかし、その発想はややマゾヒズムじみていたと反省している。やり甲斐と手ごたえは別物で、私が自分を満足させられるのは手ごたえのほうだ。

苦労して納品した仕事で、人の役に立てたと感じられるのが「やり甲斐」。苦労しようがしまいが、納品した仕事に自分自身が満足し、納品物を見た人から次の仕事を発注されるのが「手ごたえ」。

体力や集中力は加齢とともに低下し、頑張りが利かなくなっていく。不得意分野で苦労にばかり価値を置けば、結果は火を見るよりも明らかだ。

私には得意なことなどない、と人は言う。しかし、誰にでもほかの人より得意なことはひとつくらいあるもので、それは他者に見つけてもらうしかない。信頼する人に尋ねれば、なにかしら答えてくれるはずだ。

つい先日、圧倒的不得手な「好き」を仕事にしている若者に出会った。本人はとても幸せそうだが、暮らしていけるほどは稼げていない。副業だから成立していると言える。気力と体力がみなぎっているうちは、こういう働き方も選択できるのだろう。

ニコニコ顔の若者を見て、「はて、私はなにが好きなんだっけ?」と大きな疑問が湧いてきた。得意ばかりを磨いていたら、夢中になるほどの好きがわからなくなってしまった。これはこれで小さな不幸なのかもしれない。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇