苦労の経験が弟子の苦境を救う

1年を振り返り、コロナ禍で出稽古禁止、巡業もなく、幕内上位の稽古相手がいる部屋といない部屋の差があり、淡々とした取組ばかりでもしかたないと思っていたが、毎場所後半戦が盛り上がり、大相撲の底力を知った。

そして、今年の大相撲は「再生のドラマ」だった。人は生まれ変われるのだということを証明してくれた。

再生のナンバー1は、もちろん照ノ富士。病気と怪我で大関から序二段まで落ちて這い上がって横綱になった。「師匠の伊勢ヶ濱親方(第63代横綱・旭富士)の励ましの言葉があったから」と照ノ富士は言っている。しかし、その言葉を素直に受け入れたのが偉い。伊勢ヶ濱親方は横綱の時、ほかの横綱と比較され稽古不足を回りから指摘されていたが、実は持病のため稽古を加減していたという。その苦労の経験が弟子の苦境を救うのに役立ったのだろう。

ナンバー2は、怪我で前頭4枚目から序二段まで落ちて上がってきた宇良だ。苦労を感じさせず、相撲を取る喜びが全身から伝わってくるのは、見ていて気持ちが良い。