優しい言葉で乾いた目から涙が

ゴルゴ　６日間も！ そこまでとは。

武田　３日目のときに、「これはもう、言ってやらないと分からないな」って思ったんです。

ゴルゴ　ちょっと待ってください。武田さん、当時27歳ですよね？

武田　46歳の健さんに「晴れっこないですよ！ 休みましょうよ！」って（笑）。でも健さんは「おれは芝居が下手だから、暖かいところに行ったら気持ちが切れる」と言って動かない。私は「もう、寒いのにやせ我慢して！」って言って待ち続けていた。

そうしたら６日目に突然晴れたんです。相変わらず桃井さんとストーブの前にいたので、慌ててしまいました。

大型扇風機を用意して黄色いハンカチをたなびかせる予定だったんですが、必要ないくらいに風が吹きはじめた。スタートがかかって、健さんが歩き出す。カメラが健さんを見送っている私と桃井さんの方を向く。

台本には「大粒の涙」って書いてあったんですが、ストーブの前にいたので目がカラカラになり、急に晴れた驚きもあって涙なんか出ませんでした。それでも桃井さんは大したもので泣くんです。「これは山田監督に殺される」と思いました。（笑）

監督はすぐに私の様子に気づいて、「気持ちを作ってないからこうなるんだ」と。怒鳴られると覚悟したら、「器用に涙を流せる人もいるけど、目の奥がきらっと光るだけでいいから。無理に泣こうと思うな」と優しい言葉をかけてくれました。

そのときに健さんが私の方に来て、「長い間ありがとうな」って言ったんです。「あともう少しで終わりだろう。二人と一緒に映画を作れて楽しかった」って、握手をしてくれたんですよ。

そうしたら山田監督が、今までの撮影中一番優しい声で「本番行きましょう。いよいよラストです。よーい……」と始まった。そしたらまあ泣けた、泣けた。