「大変なときに力を合わせられるのが日本人」と語るゴルゴ松本さん(写真:本社写真部)
10年にわたり、少年院で「命」にまつわる講演を行ってきたお笑いコンビTIMのゴルゴ松本さんが、俳優でタレントの武田鉄矢さんと対談。言葉にこだわり、人の心に寄り添ってきた二人が、変わってしまった日常を生き抜くヒントについて語り合います。今回は、山田洋次監督作品「幸福の黄色いハンカチ」の撮影裏話について。武田さんが人生の「先生」と語る高倉健さんの芝居からは、凄みすら感じたそうで――。

山田洋次監督からの堪えた一言

ゴルゴ 武田さんにとっての、人生の「先生」にあたる方はどなたなのでしょうか?

武田 やっぱりすぐ思い浮かぶのは、「幸福の黄色いハンカチ」のときの山田洋次監督と高倉健さんですね。お二人に演技のいろはを教えてもらいましたが、山田さんにも健さんにも哲学がありました。

ゴルゴ それは、どんな哲学だったんですか?

武田 私が運転の途中でお腹を壊し、車を置いて走るコミカルなシーンが映画の中にありました。ここをリハーサルしていたら、山田監督の機嫌がみるみる悪くなっていきました。何十回もやりなおしになり、監督の言葉も荒々しくなっていった。なによりやりなおしている間、ずっと健さんを待たせていたんです。もう、身の縮むような思いでした。

そのとき、演技の素人だった僕に監督が言ったのは「武田君、喜劇は泣きながら作るんだよ」ということでした。

そのときは分からず、あとになって理解できたのですが、「下痢をして走るということは、人間としてはすごく恥ずかしい。本当は泣きたい。その泣きたい人が、お尻を押さえて草むらに駆け込むから可笑しいんだ」ということなんです。笑わせるためには泣きながら、泣かせるためには笑いながら演じる。当時27歳の馬鹿な若造でしたけれど、ものすごく堪えた一言でした。