役に立つ人ばかりでは良い映画はできない

ゴルゴ なんていいお話なんですか。それは泣いちゃいますよ。

武田 お二人がこの撮影を通して教えてくれたのは、「たった一人が名演技をしてもしょうがない」ということでした。演技がうまい人も下手な人も、そこそこの人も、みんなで力を合わせて最高の1シーンを作る。その大切さはずっと私の中で残っているんです。

武田鉄矢「映画では、たった一人が名演技をしても仕方ない」(写真:本社写真部)

このときの別れのシーンを思い出しながら、「金八先生」の卒業の場面、生徒たちを集めて一人ひとりに語りかけるシーンを演じました。そうすると生徒たちにも思いは伝わって、涙を流してくれるんです。

ゴルゴ いやあ、すごい話だ。こうやって武田さんの中で、全てがつながっていくんですね。

武田 山田組というチームはスタッフにしても、実は全員が優秀な人ではないんですよ。中にはサボることばっかり考えてる人も、愚痴ばっかり言っている人もいる。でも山田監督はそういう人を、あえてチームに入れている。役に立つ人ばかりだと、良い映画はできないんだそうです。

その映画にあまり思い入れがない人がいて、でもその人が撮影の土壇場で「監督、ここは粘りましょう」って言ったときに、作品として成功する確信が生まれるんだと。

ゴルゴ そのやり方はとても日本人らしい仕事のやり方で、今の時代にぴったりだと思うんです。それぞれが持っている「微力」っていう力を集結させて「協力」することで、「強力」にしていく。

震災のときもそうでしたが、今回のコロナも、大変なときに力を合わせられるのが、日本人という人種だと思う。「協力」が想像もできない大きな力になるのを感じました。

※本稿は、『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(著:ゴルゴ松本/中公新書ラクレ)

長きにわたり若者の人生に寄り添い続けてきたお笑いコンビ・TIMのゴルゴ松本。生き方に惑う人たちの悩みに答え、生きづらい今の時代を楽しく生きるヒントを与える、令和版「命の授業」!