高倉健さんから感じた凄み

ゴルゴ 演技には笑いと泣きの、反転の妙があるんですね。高倉健さんはどんな方だったのですか?

『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(著:ゴルゴ松本/中公新書ラクレ)

 

武田 健さんからは俳優としての矜持に、凄みさえ感じました。撮影中は毎日くたくたになるまで演技をするんですが、高倉健という人は、その間まったく座らないんですよ。

今でも思い出すのは、ラストシーンのときのこと。青空を撮影するのに、晴れるのを待っていたときです。カメラをセットして、その一歩後ろから健さんが歩き出して、画角に背中が入ってくる、という場面でした。でもその日は、まったく晴れそうな天気じゃなかったんです。しかも、ロケ地の北海道では有珠山が噴火して、撮影地のほうに火山灰が流れてきている。

あきらめて演出を変えるか、編集で空の色を塗るかしないと、終わらないと思っていました。

でも山田監督は「真っ青な空」と言ったきり、ディレクターチェアから一歩も動かない。健さんはカメラの後ろにつけられた×印の上に立って動かない。私と桃井かおりさんは耐えられなくて、近くの家でストーブを焚いてもらって暖まっていました。それも1日や2日じゃありません。6日間待ちました。