ブックカフェの足となるキャンピングカーには、「オレンジボーイ」と名づけた。周囲には人々がにぎやかに集う(写真提供:江幡さん)

孫の死が大きな転機に

そうした江幡さんと絵本のかかわりで大きな転機となったのが、3番目の孫・梨紗ちゃんの誕生とその死だったという。生まれつき重い心臓病を患い、手術のため入退院をくりかえすなか、「彼女を支えたのが絵本。なかでも、ケガをした主人公が病院で治療に励む『ノンタンがんばるもん』が大好きで、まだ文字も読めないのに、ドラマチックに私たちへおはなしを聞かせてくれたものでした」。

3歳の誕生日からまもなく亡くなった梨紗ちゃん。その一周忌を前に、江幡さんの頭にふと「家で《文庫》をやったら?」という声が聞こえてきたそうだ。自宅を開放して、子どもたちが自由に絵本を読める家庭文庫。場所は、定年後に夫が使っていた部屋を提供してもらった。蔵書は娘たちの絵本を中心に、新しく買ったり、閉じた家庭文庫から譲り受けたりして、約1000冊集めた。

そうして2017年1月、3人の孫の頭文字を取って名づけた「ふわり文庫」がオープンする。開催は月に2回、5時間ずつ。チラシやメールで日時を知らせると、近所の親子連れが集まって、思い思いに絵本を楽しんだり、置いてある木の玩具で遊んだり。読み聞かせの仲間が来てくれた時には、お菓子を焼いてもてなすこともあるのだそう。

「文庫を始めるまでの私は、自分から物事をぐいぐい進めるほうではありませんでした。どちらかといえば人の後について、皆と一緒にやっていくタイプ。それが、この時に初めて『私が中心』ってことに目覚めて。その経験が、自分を大きく変えたと思っています」