「行政に頼らずに自分たちでできることを始めればいい」と江幡さん。(撮影:藤澤靖子)

誰でも自由に読める場を

たとえば、区民文化センターの建設計画があると知った時も、そこに図書館を入れてもらうための活動を数年越しで続けた。しかし夢は叶わず、周囲の仲間が意気消沈するなか、江幡さんは「だったら行政に頼らずに自分たちでできることを始めればいい」と考えたのだ。そして思いついたのが、車に絵本を積んで街を走り、誰でも自由に読める場を提供する「移動図書館」だったという。

本はすでに「ふわり文庫」にある。仲間と実行委員会を立ち上げ、クラウドファンディングで資金を調達。知人の紹介で、町工場からキャンピングカーも無料で貸してもらえることになった。

そして19年1月、「つづきブックカフェ」が走り出す。地区センターや公園、駅前広場に許可を取って車を停め、3時間限定のブックカフェを開催。車の中やその周辺で絵本を読んだり、コーヒーを飲みながらおしゃべりしたり。「JiJiBaBa隊」もこぞって手伝いに来てくれた。

コロナ禍で家庭文庫やブックカフェの活動が難しくなってからは、近くの公園や緑道に絵本を持ち出して、小規模な「青空文庫」を開くなどの工夫を重ねている。

「そうそう、緑道といえばね!」と身を乗り出す江幡さん。実は今、新たに取り組んでいるのが都筑区の「緑道の価値の再発見」だ。港北ニュータウンの計画時に緑道を核としたまちづくりを発案した人を招いたシンポジウムや、絵地図の制作を計画しているそう。

「私は絵も描けないし、キャンピングカーも運転できないし、実は読み聞かせも昔からあまり上手じゃありません(笑)。だからできる人を探して、やってくれたら心からありがとうって。そうしたら難しそうなことも案外うまくいくものだと、楽観的に考えています」

77歳のチャレンジは、今後もますます広がっていきそうだ。


ルポ・小さな一歩を踏み出して「いま」に夢中
【1】定年後飛び込んだ劇団で、おのれを捨てて演じる自分に驚いて《小春さんの場合》
【2】孫の一周忌に聞こえた声をきっかけにブックカフェを実現《江幡さんの場合》
【3】フォロワー9万人。79歳で始めたインスタで世界が広がった《木村さんの場合》