人づきあいの基本はジョンとのつきあいにあった

その後またわが家で飼ったが、ジョンは縄張り意識のせいかその意固地さに磨きがかかり、散歩ですれ違う犬という犬に吠えかかるようになった。仕方なく、他の犬がいない時間を選んで散歩に連れて行き、運悪く犬に遭遇したら抱きかかえて方向転換するしかない。無謀な喧嘩さえしなければ、賢い犬なのに。

北海道に住む従兄が家に遊びに来たのは小学6年生の頃だったろうか。彼は道路工事の会社に勤めており、ジョンを見て、職場で飼いたいという。広い北海道の工事現場は、荒野の一軒家で周りに一匹の犬もいないし、現場の他の人たちも犬好きで皆かわいがるということだった。それならジョンにうってつけだ。

今度こそはと、その日から私はあえてジョンに冷たく接した。初めは戸惑っていたジョンも私の態度から何かを悟ったのか、すぐに素っ気なさを見せるようになる。1ヵ月ほどしたある日、学校から帰るとジョンの姿はなかった。私が留守の間に従兄が引き取りに来たのである。

その後、ジョンが皆にかわいがられ元気に走り回っていると従兄から聞いて安心した。

大人になってからも、ふり返ればジョンから受けた影響は大きかったと思う。言葉は通じずとも、こちらの心の機微は伝わること。そして動物にも人にも個性やプライドがあり、それが生きていくうえで大事な拠り所であること。私の人づきあいの基本はジョンとのつきあいにあった。

幼かった私は、あの頃ジョンをちゃんと尊重して飼えただろうか? 離れて長く経つが、たまに気になる。でもきっとジョンなら認めてくれるよね。


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