イラスト:マツモトヨーコ
コロナ禍で家にいる時間が長くなった昨今、ペット人気が高まっています。中でも、常に人気があるのが、犬と猫ではないでしょうか。主婦の真壁久子さんも、子どもの頃にひょんなことから犬を飼うことになったそうです。いつしか一番の友達になっていったという犬のジョンですが、「引き取りたい」という人があらわれて……

借りた空き家にはシェパードの先住者が

小学4、5年生の頃だから50年以上前のことだが、私たち家族は東京の下町に住んでいた。ある時、家の建て替えのためすぐ近くの空き家を一家で借りたところ、そこには大型犬が住み着いていたのだ。どうも隣家の奥さんから餌をもらいながら、自由気ままに暮らしていたらしい。

シェパードと何かの雑種と思われる先住者に、家族みんなびっくりしたが、父母は犬を追い出そうとはせず、また当時、中学生、高校生だった兄や姉も自分のことで忙しく、その犬には無関心。わが家では動物を飼ったことがなく、銭湯の帰りによく小さな犬に吠えられて逃げ帰っていたほど、私は犬が苦手だった。

ところが意外にも、その犬は家族の中で一番小さな私に懐いたのである。私の手からおやつを食べ、次第に体に触ることも許してくれた。そんな偶然から、建て替えた新居で飼うことになり、ジョンと名付けた。ジョンは安定した生活を得たためか、毛並みもよくなり、みるみる美しい犬に。飼い主が大切にすれば動物はそれに応えてくれるもの、とジョンは身をもって示しているかのようだ。

いつしかジョンと私は一番の友だちになり、毎日学校から一目散に帰宅すると、ジョンと遊び、いろいろな話をした。家族や友だちに言えない愚痴を聞かせることもあったが、そんな時ジョンは、身じろぎ一つせずに私の顔を見る。人間の言葉を理解せずとも、心は通じあっていたと思う。

お茶目なところもあった。私がいたずら半分でジョンの足に毛糸の靴下をはかせると、その場ではされるままにじっと耐えている。私が放した途端、道の真ん中に靴下を脱ぎ捨て、涼しい顔をして戻ってくるのだ。それを見て母と2人で大笑いした。ジョンはジョンなりにこの環境に順応し、人に好かれようとしているのだ。