心の余裕が何気ない所作に表れ

21年8月、竜王戦の挑戦者決定戦で久しぶりにお会いした藤井さんは輪郭がシャープになり、精悍な顔つきになっていました。しかし、そのわずか2ヵ月後、竜王戦第1局に臨んだ藤井さんの表情はまた変化していた。その間に、叡王戦を勝ち抜いたことも影響したのでしょう。お茶を飲む、扇子を持つという何気ない所作が丁寧で美しく、心の余裕を感じました。

藤井さんにとって、豊島さんは6連敗を喫したこともある強敵です。今回の七番勝負も、拮抗した戦いが続きましたが、藤井さんはそれを楽しんでいるようでした。特に第4局は、どちらが勝ってもおかしくない、細い糸の上を歩くような展開に。豊島さんが投了を告げた時、周囲は新竜王の誕生に沸いていましたが、藤井さんは険しい表情のまま対局を振り返っているようでした。

史上最年少で王位、叡王、棋聖の三冠を達成した藤井聡太三冠。初手を指す前に、お茶を飲むのがルーティン(写真提供◎読売新聞社)