人間を動かす原理は「欲」と「恐怖」

常喜 公的年金だけでは生活費が足りない、貯金も少なくて不安、という人も多いと思います。

荻野 「退職金を投資で増やしませんか」といったセールスも……。

大江 未経験の人が株式投資や不動産投資で無理にお金を増やそうとするのは、危険だと思います。私自身かつて証券会社に勤めていたのでわかるのですが、人間を動かす原理は結局「欲」と「恐怖」なんですね。老後の資金を増やしたいという欲と、足りなかったらどうしようという恐怖に囚われて冷静な判断ができなくなると、逆に大きな損失をかぶる危険もある。

荻野 おとなしく定期預金に入れておけばいいんでしょうか。

大江 これから株を勉強するつもりで、無理のない範囲の金額を投資するのはいいと思います。というのも、私の持論は「金は天下の回りもの」。お金は自分の手元に置いておくと成長もしなければ、役にも立ちません。

ところが「可愛い子には旅をさせよ」とばかりに思い切って世の中へ送り出せば、経済を回したり、誰かを助けることにつながるんですね。ですから荻野さんの美術館も、非常に素晴らしい投資と言えます。

荻野 えっ? どう考えてもまったく儲からないですよ。(笑)

大江 美術館を建ててお母様の作品を多くの人が鑑賞できるようにするという意味では、「寄付」に近い。しかし投資と寄付は、「今すぐに自分が必要としないお金」を「今必要なところ」へ回すという意味では同じ行為なんですね。

たとえば工場を建てたい、人を雇いたいという企業に投資をすると、企業は頑張って収益を上げて配当金を戻してくれます。災害を受けた地域に寄付をすると、そのお金を復興に役立てて感謝される。