介護のお金は本人負担が原理原則

荻野 終末期医療について「自分はこうしたい」と言えますが、高齢の親に対して「どうしたい?」とは言い出しにくい。これって、介護や、それにかかる費用についても同じではないでしょうか。

常喜 私自身が今まさに直面しているのが、その悩みです。91歳と86歳の両親は、やや認知機能の低下がみられる状態。現在は介護保険でヘルパーさんなどに来てもらいながら何とか2人で暮らしていますが、この先も自宅にいるのか、施設に入ったほうがいいのか。その費用は自宅を売って作るのか。まだきちんと話せていないのです。

大江 認知症が進んでしまうと、自宅の売却を含めてさまざまな契約がご本人にはできなくなってしまうので、早いうちから対策したほうがいいと思います。

常喜 任意後見制度や成年後見制度、民間の家族信託なども調べていますが、どれも一長一短で。

荻野 私の父は自分のお金を全部ニギニギして離さない人だったので、介護が必要になった時に大変苦労しました。船乗りだった時の稼ぎを父は結婚当初からまともに家に入れず、母は自分の絵を売って母子の生活を支えたんです。父を自宅で介護することになって初めて「家を改築する時も、お父さんがお金を出したのは2階のベランダと門扉だけよ」と聞かされて。

大江 そういうことって、簡単に忘れられないものですよね。

荻野 最終的には、父がアメリカの年金を入れていた貯金を私に委ねてくれることに。晩年は英語のわかるスタッフのいる老人ホームに入ることもできたんです。

大江 介護や医療にかかるお金は、本人が負担するのが原理原則。しかし認知機能が衰えると、そうした相談もできなくなる。かといって元気な時に聞くと、「まだそんな年じゃない」「財産を狙っているのか」と拒否反応を招きがちです。

常喜 どうすればスムーズに話が進むでしょう。

大江 直接ご本人にかかわることを聞くのではなく、ニュースなどを見ながら「介護にいくらくらいかかるか知ってる?」「平均で500万円と言われるけれど、そのくらいは持ってるよね」と少しずつ聞き出すほうがいいと思います。

荻野 そもそも親に自分の老いを自覚してもらい、介護保険を使わせるところから難しかったですね。母は自分で建てた家に愛着があったので、施設には絶対入りたくない。しかも最初は、ヘルパーさんを家に入れることも断固拒否。悩んでいたら、地域包括支援センターのケアマネさんが「急に道が開ける時もありますよ」と慰めてくれて。事実、肺炎で入院して看護師さんたちにケアされるのに慣れてからは、家にヘルパーさんが来るのも平気になりました。

大江 地域包括支援センターは、さまざまな介護のケースを経験しているのでアドバイスも役立つことが多い。認知症の初期の段階でも、悩んだらまず相談してみるといいでしょう。

荻野 介護ではお金と人をうまく回していかなければ自分が倒れてしまいます。頼るべき時は人を頼るということを、私は両親の介護で学習しました。

常喜 私はこれから。学ばなきゃいけないことが山積みですね。

階段の昇り降りはNG。おしゃべりで誤嚥性肺炎を予防。専門家が教える健康情報の見極め方〈後編〉つづく