「ジャガーさんはきっとどれだけ売れても変わらない」

2015年の年の暮れ。ジャガーは渋谷の「道玄坂ロック」という小さなロックバーでミニライブ&トークショーをした。地球の親友である井戸雄次さんが、愛蔵のアルバム2万枚とともに始めたお店で、リクエストしたらそれをかけてくれるスタイルのバーだ。

『ジャガー自伝-みんな元気かぁ~~い?』(著:ジャガー/イースト・プレス)

その話を聞くや、何か力になれたらと思ってイベント出演を申し出た。その頃のジャガーはすっかり忙しくなっていたけど、井戸さんには現場へ連れて行ってもらったり、仕事の契約上の相談に乗ってもらったりなど、何かとお世話になりっぱなしだった。

井戸さんに会うと、古い友達のような感覚がしてどこかホッとする。

ちなみにジャガーはもう10年以上テレビを観ていないし、「月曜から夜ふかし」ですらただ出るだけで観ていないので、井戸さんとの会話には芸能の話が一切出てこない。いつどんなときでも決まってボブ・ディランやザ・ローリング・ストーンズなどの音楽の話になるのだ。

「キースも弾けなくなって、ミック・ジャガーもテンポもキーもすっかり落としてねえ……。まあ、現役でやってるってだけでも十分いいですけど」

井戸さんが切り出すと、ジャガーもその話に乗る。

「長渕剛も『英二』や『勇次』の頃の作品はすごかったけど、最近のは個人的にはあまり……かな。だけど、最近のアルバムを聴いても最初の頃と変わってないような人って多いよね。ポール・マッカートニーもそうじゃない?」

「ジャガーさんはうちの若いスタッフとも普通に話せる感覚の持ち主なのに、そこだけやたら世代が出ますね」

「ジャガーの場合は進化し続けてるから、そう見えるんだよね。ある程度アレンジの方向が固定化されちゃってて、変化がないように見えるというか……」

「音楽やファッション面ではそうですけど、ジャガーさんご本人自体は、きっとどれだけ売れても変わらないですよ」

まるでクラスの片隅で語り合う、気の合う高校生同士のようだ。

「道玄坂ロック」にはその後、何回かお邪魔してトークショーをやっては数千枚のレコードに囲まれながら音楽談義をした。あるいは、井戸さんにうちのカレーパーティーに来てもらって話し込むこともある。それが多忙を極めるようになったジャガーのささやかな楽しみだった。