撮影:木村直軌
清水ミチコさんもそうですが、エッセイの名手として知られる小林聡美さん。その感性や言葉の紡ぎ方の秘密を探るべく、日本語の“先生”である金田一秀穂さんをお呼びした今回の鼎談。後編は、ドラマや舞台についての話が盛り上がり……

〈前編はこちら

どっちへ行ったって 同じだよ

清水 小林さんは、小さな頃からお芝居が好きだった?

小林 ドラマを見るのは楽しみでしたね。『ありがとう』とか『時間ですよ』とか面白いのがたくさんあって。同じ昭和の中で、古い時代から新しい時代に変わっていくのを描いたようなドラマの全盛だったんです。

清水 好きな女優さんは?

小林 別にいなかったなあ。小学生の頃の私のアイドルは、所ジョージさんでした。

金田一 不思議な小学生でしたね、それは。

小林 子どもから見ても、あんなふうに自由に生きてる大人っていいなあって思ったんだと思う。次に好きになったのが、ジョン・トラボルタ。『グリース』の。

清水 唐突(笑)。好きな映画って何回も観ますか? 私の場合、それが『ゴッドファーザー』なんだけど。また年末になると、必ずどこかでやるでしょう。

小林 私はあんまり映画を見返すことはないんですけど、一時期好きだったのはスティーヴ・マーティンの『サボテン・ブラザース』。西部劇の俳優が、手違いで本物の盗賊たちと戦う羽目になるっていうコメディで、今観るとすごくダサい(笑)。でも20代の頃は面白かった。

清水 よくできてたしね。

金田一 僕はディズニーのアニメーションの『ふしぎの国のアリス』。あれは、繰り返し観たくなる。以前、星新一さんが評価していらしたので観てみたら、「おお、すげえ」と。チェシャ猫というキャラクターがいるでしょう? あれは僕のヒーローなんです。

清水 ニヤーッって笑う猫ですよね。

金田一 森の中で迷子になったアリスが歩いていると、分かれ道のところにこの猫がいるんですね。で、アリスが「どっちに行ったらいいの?」と聞く。するとチェシャ猫は、「お前は、いったいどこへ行きたいのかニャ?」と聞き返す。

小林 ただいま、日本語吹き替えバージョンでお送りしています。

金田一 アリスは「どこへ行ったらいいのか、わかんないのよ」と答える。そうすると、「じゃあ、どっちへ行っても同じだニャ」と。

清水 ルイス・キャロルは深いですよね。子どもには、そのすごさはわからないかも。

金田一 だから何度も観ちゃう。でね、時々学生に「先生、どうしたらいいでしょう?」なんて聞かれると、「どっちへ行ったって同じだよ」と返答する。

小林 それ、とっても都合のいいセリフですね、先生。(笑)