「あれは歯を磨くようなものだから」

金田一 もう4回も出演してるのに、よくわかんないんですよ。「舞台に立つのは快感でしょう?」って聞かれることも多いけど、正直あんまり。それより楽屋が楽しいですね。地元の人が差し入れを持ってきてくれたりして。

小林 お稽古は何日くらいかけてやるんですか?

金田一 僕はせいぜい2日ですね。

小林 2日で舞台に立つの? 歌舞伎俳優並みじゃないですか。

金田一 チョイ役だもん。最初はセリフなんか覚えずに、アドリブでいいだろう、くらいに考えていたんですよ。そしたら「セリフをきちんと覚えなさい。間違えちゃだめ」って。

清水 本番でアドリブするほうが、勇気いりますよ。

金田一 確かに、本番って緊張しますね。職業柄、90分しゃべるのなんて難しいことではないのに、どうして1分のセリフがこんなに大変なのかと。だから役者さんはすごいなあと、改めて思うようになりました。僕はきっと決められた言葉を言うのがいやなんでしょうね。小林さんは、舞台に立つのは快感ですか? 同じこと繰り返すと、飽きませんか?

小林 わからない……。

清水 え? わからないの?

小林 舞台って、始まるとなんだか毎日同じ夢を見てる感じになるんですよ。「ああ、今日もこの世界にきちゃった」って。

金田一 プロならではの感覚ですね。

小林 いえ、要はつらいわけです(笑)。舞台の場合、間違ってもやり直しがきかないし、休めないから体調には特に気をつけなくてはいけないし。そういうことも含めた緊張感がどうしてもあるので。

清水 夜もぐっすりっていうわけにはいかないんだろうね。

小林 昔、波乃久里子さんと映画でご一緒した時に、「毎日舞台をやるのは大変ですね」と言ったら、「あれは歯を磨くようなものだから」って、さらっとおっしゃったんですよ。わあ、こういう人もいるんだ、と思った。

金田一 森光子さんもそうだったのかなあ。

清水 何千回も歯を磨いてたんだ(笑)。でもその境地まで行けたら、勝ったも同然じゃないですか。だって緊張感との戦いはもうないから、自分の演じたいように演じられるわけでしょう。羨ましい。

小林 そうそう。私がこの先、その域に行けることはまずない。(笑)

金田一 今度、おふたりの生の舞台を観てみたいです。清水さんの武道館ライブもぜひ行きたい。

清水 どうぞ。ぜひ文士劇の役作りに生かしてください。(笑)