先生ほど自分で自分の人生を書いた人はいない

何人かの芸能人は口を揃えて言う。行くとシャンパンを抜いてくれて、本当に愉快で豪快な方であった。つらい時にいいアドバイスをくれた。

私たち作家は、おそらくこれからも文学史に燦然と輝くであろう、先生の作品について熱く語る。そしてそうした本を一冊も読まないネット民たちは、娘を置き去りにした自分勝手な人間ではないかと。

いったい瀬戸内寂聴とは、どういう人だったのだろうか。

私にもよくわからない。ただひとつ言えることは、徹底したリアリストだったということ。人の心の裏側がよくわかっている人であった。だからこそ「来る者拒まず」で誰でも受け入れ、そしてそこで得たゴシップを実に面白おかしく話してくれた。

作家なんて、死んだら次の年から本屋から著書は消えていく。私の作品で残るのは源氏物語訳だけだと真顔で私に言ったこともある。

この対談の中で、先生は私に自分の伝記を書くようにとおっしゃったが、私はあまり信じていない。たぶん私以外の何人かにも言ったと思う。それに先生は多くの自伝的小説やエッセイを残し、その中で自分のことをかなり饒舌に語っているのだ。もはや私の出る幕はない。先生ほど自分で自分の人生を書いた人はいないのだから。

ふんだんに、多くの人々に「瀬戸内寂聴」という強烈な気を浴びせ続けながら、99歳まで生きた、なんとまあ幸せな一生だったことだろう。ただただ羨ましく、そして本当にさみしい。


★瀬戸内寂聴さんと林真理子さんの対談動画を『婦人公論』公式YouTubeチャンネルで配信中