1000人の写真家のうち999人が通り過ぎた

写真を拡大 「木は僕にとって永遠のテーマの1つ。大自然が生み出した、カタチは時には仁王像のように、時にはセクシーな女性のように見える。木を撮るときは必ず、木にふれてご挨拶をして、撮り終わるとお礼のご挨拶をする。木とシンクロして撮らせていただくことが大切」(撮影=相原正明さん)

〔 処方箋 〕

オーストラリアの南に位置する島、タスマニア州のシンボルであるクレイドルマウンテンに行く途中に、僕のお気に入りの撮影場所がある。荒野に多くの孤高の木々が立ち並ぶ場所だ。観光客も写真家たちも、ここに足を止めるものはほとんどいな い。なぜなら、心はクレイドルマウンテンを見ることでいっぱいで、途中の景色には関心を払わないからだ。

でも誰も関心を払わないところに、自分の世界を見つけ出し、そこにまずは足を止める。これが自分だけ のオリジナル作品を作り出す第1歩だと思う。

2004年、初めてタスマニアで個展を開催するためのプレゼンで、学芸員の女性から
「あなたは1000人の写真家のうち999人が通り過ぎた場所を、立ち止まって作品にした1人だと思う。私が欲しい作品は、その立ち止まった、たった1人の作品。だから私はあなたの個展を開催したい」
といわれた言葉を思い出す。自分の気持ちと自然のシグナルに心を傾けて、足を止めること、ファインダーをのぞくこと、この繰り返しが僕のオーストラリア撮影の30年の基本だ。

前回「〈撮り鉄〉の少年時代から…」はこちら

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★相原正明フォトエッセイ テーマ「水」|from OITA 大分を巡る|koji note[三和酒類株式会社] (sanwa-shurui.co.jp)