必要な筋肉が必要なだけ鍛えられて
私たちの体を構成する「部品」は、それぞれがかなりの重量を持っている。体重が50キログラムの人であれば、頭は5キログラムほどもある。足は一本あたり約10キログラム、腕も一本4〜5キログラムほどあり、意外なほどにずっしり重い。
私たちは日頃、自分の「部品」の重さを自覚することがほとんどない。これほど重いものを毎日「持ち運んでいる」にもかかわらず、意外にもそのことに気づかないのだ。
頭や手足は、肩や背中、臀部の大きな筋肉で支えているため、重さを感じにくい。これは、子どもを抱っこするより肩車をするほうが楽に感じたり、重い鞄を手で持つよりリュックサックを肩に背負うほうが軽く感じたりするのと同じ理屈である。
また、生まれてから今に至るまで、必要な筋肉が必要なだけ鍛えられている。体は、自らの「部品」を持ち運ぶのにもっとも好都合に発達するからだ。
一方、私が初めて医療現場に出たときもっとも驚いたのは、まさに「人体がいかに重いか」という事実である。
医療現場では、歩けない人をベッドから車椅子に移動するのを介助したり、意識のない人をベッドからベッドに移動したりすることは、日常的な仕事だからだ。