スピルバーグ監督の通訳だった
大量の候補から最適な人物を選ぶのは手間も時間もかかるうえ、俳優の演技力や可能性、才能を考慮して探すには専門性も必要です。そこで、キャスティングディレクターという職業がメジャーになりました。
私がこの仕事をするきっかけになったのは、87年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『太陽の帝国』でした。舞台は日中戦争時の上海。そこに暮らすイギリス人の少年が、日本軍の侵攻によって両親とはぐれ、日本軍が管理する収容所に送られる、という物語です。
日本人の俳優も何人か出演するため、私はオーディション会場でスピルバーグ監督の隣に座って通訳をしました。このとき、私はまだキャスティングそのものには関わっていません。
ただ、名だたる日本の俳優たちも意気込んで受けに来ていたオーディションで、監督がどういうふうに役者を選ぶのかを隣で見ていて、その気持ちや熱意は充分理解できました。役柄に合うことはもちろんですが、気持ちよく仕事ができて、いい映画を作りたいという情熱を共有できる人を選んでいる姿は、とても勉強になりました。
そうした監督の思いの中で選ばれたのは、伊武雅刀さん、片岡孝太郎さん、ガッツ石松さんなど。彼らは映画の中でそれぞれすばらしい演技を見せています。
その後徐々に、私のところに日本人俳優が出演するハリウッド映画のキャスティングの依頼が来るようになりました。イメージが合うか、演技力はどうか、英語ができるか、スケジュールが合うかなど、さまざまな条件を考慮して、いちばんふさわしいキャストを監督に推薦し、判断を仰ぎます。
つまり私の仕事は、監督がそれぞれの役柄に対して持つイメージに合った俳優を探して推薦すること。でも、ときには監督のイメージとは少し違った角度で考えることを提案したり、実際に探して、監督に紹介したりすることもあります。白人の役をアジア人にしてはどうか、若い役は少し年齢層を広げてみたらどうかなど、そんなアドバイスが作品の味を深めることもあるようです。