写真は嘘をつかない

役を輝かせてくれる俳優に出会いたいので、私は常に輪郭だけを描いて中を透明にし、そこにピタリとはまる人を選ぶ――そんな感覚で探しています。そのために、おびただしい数の写真やビデオを見ます。

数多ある芸能事務所に一斉に依頼をかけて、イメージに合いそうな人の写真を出してもらい、一枚一枚丁寧に見ていきます。事務所が20人の候補を出してきたら、じっくり見て何人かに絞って会ってみる。

でもそれだけでは偏りますから、常にテレビや舞台もチェック。さらに雑誌や新聞、タレント名鑑などもたんねんに見て、興味を持った人がいたら、ほかの写真や活動歴を調べます。なるべく多くの方にチャンスをあげたい、逸材を見逃してはいけない。そんな使命感に突き動かされ、いつも必死です。

奈良橋さんがのちに関わる『ラスト サムライ』のキャスト(写真提供◎奈良橋さん)

探している最中は、そのことで常に頭がいっぱいですから、NHKのドキュメンタリー番組を見ていて、「あ、この人、ぴったり!」などと、ひょんなところで見つけたこともありました。

最初は写真で見るわけで、外観から入らざるをえません。でも、写真とは不思議なものです。どんなに取り繕っても、嘘をつけないところがあり……その人の人間性が何となく見えてくるのです。写真で「この人!」とピンときて、実際に本人に会ってみたらやっぱりイメージ通りだった。ほとんどがそうですから、写真はかなり大事なんですね。

次回は私がキャスティングした映画についてお話しします。


《奈良橋陽子さん「Beautiful Name」》
【1】キャスティングディレクターの仕事とは
【2】『ラスト サムライ』という大きな挑戦
【3】100人オーディションして、ズバ抜けていた菊地凛子さんの苦労