朝ドラ『カムカムエブリバディ』もいよいよ残すところ2週、ファンにとっては伏線の回収にも注目が集まるところ。主人公・ひなたが条映太秦映画村の職員として、必死に勉強した英語でアテンドしたハリウッド映画『サムライ・ベースボール』のスタッフの中に、女性のキャスティングディレクター、アニー・ヒラカワがいた。森山良子さん演じるアニーが安子なのでは? とSNSでも盛り上がりを見せている。そのアニーのモデルとなったのが、トム・クルーズ主演映画『ラスト サムライ』に日本人俳優を起用した、キャスティングディレクターの奈良橋陽子さんだ。奈良橋さんの仕事について、『婦人公論』連載「Beautiful Name」から3回にわたって掲載する。(構成◎柴本淑子)

ダスティン・ホフマンの2度のアカデミー賞

私のプロフィールには「キャスティングディレクター」なる肩書が記されていますが、これは一体何だろうと思われた方も多いのではないでしょうか。このキャスティングディレクターについてのお話させていただきます。

キャスティングとは、演劇・映画などで俳優に役を振り当てること。プロデューサーや映画監督が俳優をキャスティングするのをサポートします。日本ではあまり馴染みのない名称かもしれませんし、本家アメリカでもそんなに昔からある仕事ではありません。

アメリカでは1920年代から50年代初期にかけてスタジオ・システムというものがあり、大きな映画会社、たとえば20世紀フォックスとかワーナー・ブラザースなどが専属的に俳優や監督、スタッフを抱え、製作・配給・興行までをコントロールしていました。当時の映画はクラーク・ゲーブルやケーリー・グラントといった白人のかっこいいお抱えスターを主役にして作られていたのです。

しかし戦後、ハリウッド映画の世界にも変化が訪れます。ある優秀な女性のキャスティングディレクターが1967年に『卒業』という映画の主役にダスティン・ホフマンを推薦しました。彼は身長が165センチしかなく、いわゆる美男子でもなく、それまでの映画スターとは明らかに違いました。

しかし、演技力の高さ、おもしろみは卓越していて、この作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。彼はのちに『クレイマー、クレイマー』(79年)と『レインマン』(88年)で2度のアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

こうして以前の流れに風穴が開き、個性派の俳優が育っていくようになると、白人中心だった映画界で、黒人や東洋人も重要な役を占めるようになってきました。また、英語を話す俳優がいるのはアメリカだけじゃない、ということで、大事な配役は世界中の英語圏で探すことになっていくのです。

この傾向はここ15年ほどはとくに顕著で、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスなどの俳優が、アメリカ映画の主演を務めています。