朝ドラ『カムカムエブリバディ』もいよいよ最終週。残る伏線の回収にも注目が集まるところ。主人公・ひなたが条映太秦映画村の職員として、必死に勉強した英語でアテンドしたハリウッド映画『サムライ・ベースボール』のスタッフの中に、女性のキャスティングディレクター、アニー・ヒラカワがいた。森山良子さん演じるアニーが餡子のおまじない「magic spell」に反応するなど、安子なのでは? とSNSでも盛り上がりを見せている。そのアニーのモデルとなったのが、トム・クルーズ主演映画『ラスト サムライ』に日本人俳優を起用した、キャスティングディレクターの奈良橋陽子さんだ。奈良橋さんの仕事について、『婦人公論』連載「Beautiful Name」から3回にわたって掲載する。第3回は「キャスティングの苦労」についてです(構成◎柴本淑子)

1枚の年賀状で見つける

今回も、日米をつなぐキャスティングディレクターの仕事についてお話しします。

この仕事に資格やライセンスはありませんが、俳優の演技力を見極めるために、自分自身が演技についてよく理解していることが重要です。ハリウッド映画が求めている演技がわかっていれば、俳優にオーディションに臨むにあたってのアドバイスもできます。

英語力はあって当たり前。通訳を雇えばいいだろうなんてことは通用しないのです。アメリカでは自分の言葉で、自分で話すのが大前提ですから。

『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999年)という映画のキャスティングをしたときは、英語がしゃべれない子役のために猛特訓も引き受けました。この作品は第二次世界大戦前後のアメリカを舞台に、日系アメリカ人への差別や偏見、日系人女性と白人男性との恋愛などをテーマにした映画です。

ヒロインの工藤夕貴さんの少女時代の役を演じたのが、当時12歳だった鈴木杏ちゃん。単にセリフを暗記して上手な発音でしゃべるだけではなく、「自分の言葉」として、自在に使いこなせるレベルにまで引き上げるように指導しました。

以前、俳優を探すため写真や雑誌などを片っ端から見るという話をしましたが、実はこの杏ちゃんを見つけたのは、もっと稀有な偶然からでした。その年、杏ちゃんの事務所から届いた1枚の年賀状。所属俳優がたくさん写っている中に、杏ちゃんの顔も小さく載っていただけでしたが、印象に残りました。

やはりたくさんの写真や映画、ドラマを見ることは大切です。私の場合、それらを見るうちに、「あの人のここがよかった」「あの人はあの役にぴったりだった」というのが、頭の中に蓄積されていきます。作品を楽しみながらも、自然と目につく人のことは覚えているものです。