大人が食事を終えるまで、子どもたちも席を離れないのがフランスでは一般的。タサン家でも、子どもが食事に飽きてもできる限り最後まで食卓を囲むことを教えているのだとか(写真提供:『ちょっとフレンチなおうち仕事』[ワニブックス]より)

収入は多くはないけれど

このままフランスに行こうと思いましたが、生活費以外のお金をすべて勉強に注ぎ込んでいたため、貯金がありません。フランス文化に触れながら渡航費を貯めるため、アルバイトで入った飲食店で出会ったのが、夫のロマンです。両親は、これまでめったに連絡もよこさなかった娘から、突然「15歳年下のフランス人と結婚する」と知らされて、さぞやびっくりしたことと思います。

料理人の世界は、いまも男社会です。それは文字通り、体力勝負の世界だから。朝から晩までの立ち仕事、休みもない生活が続くので、子どものいる女性が働けるような環境ではありません。料理人時代は、私も「一生独身なのだろう」と考えていました。

それが35歳で結婚することになり、年齢的に出産も考えなくてはならない。そのとき、この先自分ができる仕事はなにか、を真剣に考えました。妥協ができない自分の性格を考えると、再びレストランで働くのは難しい。妊娠中も出産後も続けられる料理の仕事で、いままでの経験を活かせて、フランスの家庭料理が学べて、フランスとずっと関われて……。

頭に浮かんだのが、フランス人の友人がやっていたベビーシッターでした。いまはもう使っていませんが、家事代行のマッチングサービスに利用登録をしたのが、いまの仕事への第一歩です。

つくりおきのブームがくる前は「料理だけ」というオーダーが少なくて、当初は掃除がメイン。料理の依頼が少しずつ増えてきたころ、お惣菜にフランスの家庭料理をプラスしてみたら、「こんな本格的な味を家で楽しめるなんて」といった感想をいただけるようになりました。特に嬉しかったのは、「子どもが大喜びです」「おばあちゃんはお箸でいただきました」「麦茶にもビールにも合いますね」と、思い思いに家族でフランス料理を楽しんでくれている様子が伝わってきたことでした。

家政婦の仕事は、移動時間も考えると、1日最大で3軒が限界。正直それほど収入が多いわけではありません。でも、そもそも料理人の給料も高くはなかったですし(笑)、いまの住まいは築60年の一軒家を月5万円台で借りて、リフォームしながら住んでいるくらいなので、たぶん、あまりお金を使わない生活が身についているんだと思います。

実家は共働き家庭でした。看護師だった母は毎日忙しく働いていたけれど料理が得意で、幼いころから私に包丁を持たせてくれました。母の姿を見ていたので、女性であっても働き続けるのは当たり前と思って育ちましたし、フランスでは女性の就業率は8割以上ですから、ロマンも私の仕事をいつも応援してくれます。