診察をして、乗客の苦情や身の上話に耳を傾け続けて

「東日本大震災以来の、とんでもないことが起きていると思って。その日だけで、船から何十人もが救急搬送されているんですよ。でも、なんで涙が出たのかわからない。とんでもないことが起きているのと、安堵とが入り交じった涙だったんだろうか」

クルーズ船の乗客らの搬送作業は日没後も続けられた。横浜市鶴見区で。2020年2月7日撮影(写真提供:読売新聞社)

 

 

小早川は自分なりに、そのときの気持ちを言葉にした。

個人防護具を着けて、船室を一部屋一部屋訪ね歩き、感染のリスクを負って検体を採取し、診察をして、乗客の苦情や身の上話に耳を傾けた。乗客は自分たちがこれからどうなるのか不安に駆られ、何より情報をほしがっていた。

しかし、DMATの一人として支援に駆り出されているに過ぎない自分自身、政府がどういう出口戦略を描いているのかいないのか、詳しく知らされているわけではなく、答えられるはずもなかった。

端から見れば、ほとんど愚痴の聞き役か怒られ役、サンドバッグのようでさえあったかもしれない。睡眠もろくにとっていなかった。