「さっさと仕事に行ったら?」
そんな不満が積み重なった去年の夏。藤木さんは熱中症になり職場から救急搬送された。病院へ迎えに来てくれた娘に「やはり娘はありがたい」と感謝の念が湧いたが、それも束の間。
「翌日まだ体がふらつくので、数日休むと職場に連絡したのです。すると娘が『さっさと仕事に行ったら?』と一言。ショックでした。たぶん私が家にいるのが鬱陶しかったのでしょうね。日中は私や娘の夫は仕事でいないので、娘は好き勝手してますから」
その数日後、仕事で疲れた藤木さんが帰宅すると、ソファに寝そべり、アイスを食べながらゲーム中の娘の姿が。ついに藤木さんも堪忍袋の緒が切れた。
「娘に『もう一緒に暮らせない。期限を決めて出て行って』と、きっぱり言いました。さすがにそのときは起き上がり、しおらしく『はい』なんて言っていたんですが……」
それから半年経つが、娘一家は家を出る気配もない。
「同居すること自体はかまわないんです。でも育てた娘とここまで気が合わないのが、一番こたえますね」と藤木さんは嘆く。
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老後を見据えた二世帯住宅や、親離れしない子どもの存在など、同居している事情はさまざまあるが、話を聞いてみて改めて感じたのは、年を重ねてきた親子が同居しながらほどよい距離を保つ難しさだ。ともすれば実子の言動がストレス源になるのは当然のことなのかもしれない。
実はかく言う私も、今のところ実家暮らし。介護があるため親も表立って不平不満は言わないが、私の態度に我慢していることもあるのだろう。ついわが身を振り返ってしまった。