ゴルフ、麻雀、新宿

藤子(A)先生の代表作のひとつに『プロゴルファー猿』があります。1974年から1980年にかけて『少年サンデー』(小学館)で連載された同作は、少年漫画として初めてゴルフを取り扱った作品でした。

自作ドライバー1本で、ゴルファーとして活躍する主人公・猿谷猿丸。ショットをピンの旗に当てて直接カップインさせる必殺技「旗つつみ」など、荒唐無稽な技を駆使し、強敵たちへと挑むストーリーに当時の子どもたちは夢中になりました。

先生は自身でもゴルフをたしなんでいました。マンガ家は普段、担当編集者としか会わないので、朝方まで飲んだり、ゴルフや麻雀をやることで意識的に人間関係を広げてきたとか。飲む場では、年齢も肩書きも関係なしにワイワイできるのが面白い、と語っています。

仕事場でペンを走らせる藤子(A)先生。2012年7月撮影(写真:本社写真部)

「ゴルフというのは何が面白いって、あれは四人でやるでしょう。大会社の社長だろうが何だろうが、空振りするとアチャーと子どもになったり、感情がもろに出るスポーツだから。とってもマンガのネタになる。」

また時間を見つけては、自らが立ち上げた漫画制作会社・藤子スタジオのある新宿の街を散策し、ショッピングなどを楽しんでいたようです。

「僕はデパ地下が大好きで、食品売り場をグルグルまわって、いろいろなものを買い込むんだけど、家に持って帰ったとたんに興味を失う。買うことですごく満ち足りた感じがして、楽しーくなっちゃうんだね。それで家に帰ってワイフから、『この間もそれ、買ってきたわよ』って言われて、『もうしません』って(笑)。でも、そういうことが面白い。仕事中にポーンと抜けて、新宿の町をうろうろして。日常のなかの非日常というんですかね。」

(以上『婦人公論』2002年7月22日号)