【相談2】子の悩み
父が元気なうちにアパートを売るべきか(62歳・パート)
しかし先日、不動産業を営む知人に、「アパートの売却は名義人の意思確認が必要だから、判断力が低下すると売ることができないよ。銀行口座も凍結されて、お金が引き出せなくなる」と言われてビックリ。
すぐにでもアパートを売るべきでしょうか。
早め早めの対策がカギ
認知症になると判断能力が低下したと見なされ、本人名義の預貯金、株式、不動産など資産の取引はほぼできなくなります。
相談者のお父様がまだ認知症と診断されていなければ、アパートを売ることは可能でしょう。ただしアパートは、一般の住宅より買い手がつきにくい場合があるため、売れるのを待つ間に症状が進行するかもしれません。
親が認知症になる前の対策として注目を集めるのが、「家族信託」です。これは、不動産や預貯金などの財産を家族に託し、管理や処分を任せられるようにする契約。つまり、相談者はアパートの所有者であるお父様と契約を結ぶことで、売却できるようになるのです。
ただし、売却で得た収益は元の所有者であるお父様のもの。贈与とは異なります。
家族信託には注意すべき点もあります。アパートと自宅を所有するお父様が亡くなると、遺産総額が基礎控除額を超えてしまい、相続税がかかる可能性が。本来、相続税が発生するとわかれば、生前贈与によって相続財産を減らすなど節税対策を練ることができます。しかし家族信託を結ぶと、自由に相続対策がとれなくなるのです。
万が一認知症になってしまったら、本人に代わって後見人が財産管理をする「成年後見制度」を利用する方法があります。財産が多いと親族は後見人になれない可能性が高く、第三者が選任されますが、後見人が家庭裁判所に申し立てて許可されれば、アパートを売却できます。ただし一度後見人をつけるとお父様が亡くなるまで解約できず、毎月数万円の報酬を支払い続けなければなりません。
だからこそ、お父様が認知症になる前にできる限りのことをしておくべきなのです。このケースでは、相続の際に相続税が発生するかどうかを確認するのが最優先。発生する場合は、節税対策をしたり、納税資金のことも考えておく。そのうえでアパートを売却するなら早急に。必要なら前述の家族信託を利用する方法もあります。
また、お父様の口座から預貯金が引き出せなくならないよう、代理人カードを作っておくと安心です。口座を持つ本人と代理人になる人が一緒に金融機関に出向けば、すぐに発行してもらえます。このカードがあれば、本人でなくても口座からお金を引き出すことが可能です。
なお、株や投資信託などの運用商品は、認知症と診断された後は、後見人がついても換金できません。お父様の判断力があるうちに手じまいし、預貯金に預け替えることをおすすめします。