最初に発見されたのはB型肝炎ウイルス

最初に特定されたのは、B型肝炎ウイルス(HBV)です。このウイルスの発見は、ある意味ではまったく偶然になされました。米国の医師バルーク・サミュエル・ブランバーグは、世界のいろいろな地域に興味をもっては積極的に出かけていく、インディ・ジョーンズのような旅行家でした。彼は、自分の医学研究の一環として、世界中の人びとの血液サンプルを収集し、人類の多様性について研究していました。

彼は、米国の国立衛生研究所(NIH)の血液学者ハーベイ・オルターの協力を得て、血友病の患者の血清とゲルの中で反応して特異な沈降線(不溶物の集まりが線状になったもの)を生じる血清を、彼の血液サンプルの中から見つけ出しました(1964年)。これはオーストラリアの原住民であるアボリジニの男性の血液でした。

血友病の患者は、出血症状のために複数回の輸血を受けています。したがって、その血清中にはいろいろな抗原(異物の目印)に対する抗体(抗原と結合し、異物を除去する分子)が存在すると考えられます。沈降線は、そのアボリジニの男性の血液中に、血友病患者の血清中に存在する抗体と結合する「未知の抗原」が存在することを示していたのです。ブランバーグは、これをオーストラリア抗原(Au抗原)と名づけました。

Au抗原は、今では「HBs抗原」と呼ばれています。B型肝炎に感染しているか否かを判定するために、最初に測定する抗原です。やや専門的な話になりますが、B型肝炎ウイルスは皮の部分と芯の部分からなる二重構造をした粒子で、HBs抗原は外皮を構成するタンパク質です。

このHBs抗原に対する抗体は、中和活性(異物を排除し、以後の感染を防ぐ効果)があることが知られています。すなわち、HBs抗体が陽性になった人は、B型肝炎ウイルスに感染する心配はないということです。それを利用して、HBs抗原はワクチンとしても利用されています。

輸血後にかかる肝炎のように、一過性のB型肝炎が起こり、やがて消えて回復していくケースを「B型急性肝炎」といいます。一方、ウイルスが持続感染するケースもあります(「キャリア」といいます)。この場合は、HBs抗原が生涯陽性で、抗体が出現することは稀です。「キャリア」の多くは無症候です。

輸血がB型急性肝炎の原因になるのも、このような無症候のキャリアの血液が混じることが要因です。肝炎との闘いにおける大きな一歩となったB型肝炎ウイルスの発見によって、ブランバーグはノーベル賞を受賞しました(1976年)。