イラスト:タムラサチコ
もっとも人口ボリュームの多い団塊の世代は、2022年に後期高齢者となります。約600万人、日本人の約20人に1人が年老いていくことで、未曽有の高齢社会に突入します。親の実家を整理する「親片」は大変な労力を要するもの。また、空き家の問題も浮上しています。最期を前にしたとき、私たちは自分の人生を振り返ることでしょう。大切にしたいものは人それぞれのようですが、遺された子どもには迷惑なこともあります。菊田恵理さん(大阪府・会社員・43歳)が父の家で見たものは・・・

私の部屋にできた「地層」に

戦後のモノのない時代を生きた父が、80歳で他界した。彼の口癖は「もったいない」。気持ちはわかるが、度を越えた「捨てられない人」だった。

一緒に暮らしていたときも不要なものを溜め込んでいたが、私が勝手に処分していたので、ゴミ屋敷にはならなかった。それでも気がつくと、スーパーのレジ袋、駅などで配られるポケットティッシュが部屋の隅に積み上がっている。

そんな父が一人暮らしになったのは、私が結婚して家を出てから。父が他界したことで、その後の実家のありさまが発覚した。

というのも、結婚して10年間、私は一度も実家に帰れなかった。結婚生活が楽しくなくて、幸せではなかったから、沈んだ顔を見せたくなかったのだ。男手一つで私を育ててくれ、結婚するとき心底安心していた父に、余計な心配はかけたくなかった。

そんな私の気持ちを察していたのか、父は電車を乗り継いで、私の好物がたくさん入った紙袋を提げて、よく会いに来てくれた。そのときの父は、身なりもしっかりしていたから、一人でもちゃんと暮らしているのだと思っていたのだ。

父は心不全で突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。ばたばたと初七日を済ませ、心の整理がつかないまま、私は一人で実家の整理に行った。10年ぶりの実家は、ひんやりとした空気に包まれ、懐かしさと寂しさを伝えている。父は10年も、一人でここに暮らしていたのだ。もっと一緒にいてあげればよかった。

懺悔の思いを抱えたまま、居間を出て2階に上がる。私の部屋の襖を開けたとたん、さっきまでの思いが吹き飛んだ。