10年分の新聞紙のインクのニオイが

室内は大量の布団であふれていた。いったい何人分あるのか。柄はバラバラで、見たことがないものばかり。しかも、すべて汚いのだ。どうやら父は、捨てられていた布団を拾ってきたようだ。

その山に挟まって、父のサイズとは合わない服が大量にある。布団の山の上には、座布団の小山があり、布団の下には、毛布らしきものが、地層のように重なっている。父はこの布の山を築いてどうするつもりだったのだろう。

父の部屋はもっと酷かった。かろうじて寝るスペースは確保されていたが、そのほかは隙間なく新聞の山が築かれている。私が家を出てから、10年分の朝夕刊が、広げた状態で積み上げられていた。タバコと父の体臭、さらに10年分の新聞紙のインクのニオイが混ざって異臭を放っている。

さらに驚いたことに、この新聞紙の間には、赤面ものの写真が隠れていた。年をとっても父は男。そういう欲情があっても、と理解はしたいが、そんな写真が100枚以上となると、さすがに異常さを感じる。そもそもどうやって入手したのか。父が生きていても、怖くて聞けなかっただろう。

押入れからは、無造作に放り込まれたはさみが50本近く出てきた。錆びたものもあれば、新品で箱に入ったものもある。どれも裁ちばさみで大きく、いまにもジョキジョキとこちらに切りつけてきそうな気がして、ゾッとした。

さらに奥には、大量の釘が入ったダンボールが3つ。父は大工でもなければ、工作が趣味でもない。さらに不思議なのは、金槌がひとつもないこと。ただひたすら釘だけをダンボールに溜め込んでいたのだ。

驚きはまだある。1階の台所のシンク下には、包丁が37本もストックされていた。すべてピカピカに研ぎすまされていて、切れ味抜群といった感じだ。刃の光り具合から考えると、父はこまめに包丁を研いでいたようだ。昔話に出てくる、山姥を連想させた。大型のはさみに包丁、銃刀法違反で捕まるのではないか。