本当に尊い、貴重な日々

翌日からは話しかけてもうなずいたり首を振ったり、しゃべることもしんどい様子。容体が改善しないということで、娘さんもいらして、いつも誰かが付き添うことになりました。11月8日の夕方、瀬戸内と二人になった時間があり、寂庵と息子の様子などを伝えることができました。

それから半日後の11月9日早朝に急変。急いで寂庵のスタッフ全員も駆けつけて、親族の方と最期を看取らせていただきました。まるで眠っているようで、いまにも起きてきてくれそうな、本当にいいお顔でした。

寂聴さんの書

瀬戸内との出会いは私が大学生の頃。就職活動がうまくいかず落ち込んでいた時に、ご縁をいただいて寂庵で働くようになりました。

瀬戸内は88歳で、歳の差66歳。当初、至らない私をしかってくれ、その後は遠慮のいらない関係を与えてくれました。時には、「つけまつげ」など若者の話題にも興味津々で、明るくて魅力的な先生でした。

いつしか瀬戸内からは「私が死ぬ時までいてよね」と言われるようになりましたが、まさかこんなに急にお別れの日が来るなんて思ってもみませんでした。何度か怪我や病気をしても、そのたびに復活してきましたから、100歳を軽く超えてまだまだ一緒に過ごせる、と信じていたのですが……。

瀬戸内は、「いつもワクワク、ドキドキしていたい」と言い、湧き出てくるパッションをばねにして行動していました。99歳の最後まで、言葉によって多くの人を励まし、被災地や困難を抱えた人への支援などさまざまなことに打ち込んでいた。

そして最期まで現役作家として書き続けていました。その姿を近くで見ることができたのはつくづく光栄なことと思います。この10年は本当に尊い、貴重な日々でした。瀬戸内に教えてもらったことを人生の糧にしていきたいと思います。