◆ポンタがいなくなったら…
男女雇用機会均等法が制定された年に大手食品会社に就職し、「結婚も出産もせず、バリバリ働く!」と決めたカナエさん(51歳)。しかし、42歳の時同僚と結婚。それから4年後、夫のギャンブル癖と借金が明らかになり、短い結婚生活に終止符を打った。
「信頼していた人に裏切られてしまい、結婚と同時に飼い始めた猫のポンタだけが心の拠りどころです。でも、そのポンタも高齢。身体のあちこちに変調をきたし、あと何年一緒にいられるかわかりません。ひとり残されたら、どう生きていけばいいのやら……」
仕事はある。その仕事で人生を謳歌するはずだった。けれども更年期が訪れ、集中力、理解力、判断力のすべてが以前に比べて低下していることを感じ、仕事への自信が薄れている。ひとりで生きるのが心もとなく、将来が怖くて仕方がないのだ。
「若いうちは『子どもなんて仕事の邪魔』と思っていたけれど、今や子どものいる友人がうらやましくてたまらないんです。子どものために仕事に邁進する人もいる。しかも、人間の子は、猫のポンタと違い、あと何十年も生きてくれるんですから。今となっては本当に、子どもを拒んだ自分が恨めしい。と言ったところで、もう出産は無理ですし……」
カナエさんは、友達の子どもたちをわが子のように思い、長年かわいがってきたつもりだ。誕生日やクリスマスのプレゼントも、欠かしたことはない。時にはメールを送り、「何かあったら連絡して。私はいつでも味方だから」と励ましてもいる。
「そんな私の行動に、ある人が『頭の片隅に、あわよくば誰かひとりでも、自分を看取ってくれる子が出てきたら幸い、という思いが潜んでいるんじゃない?』と指摘してきたんです。そうだとすれば、私って計算高くて醜いですよね。自分ではそうではないと思っていますけど」
先日、ポンタが下痢で緊急入院した。カナエさんは無意識に、声を聞くのも嫌なはずの元夫に電話をかけていたという。「お願い、今すぐ来て!」。ところが元夫は、迷惑そうにこう言い放った。「『ポンタには二度と会わせない』と断言したのは君だ。今さら来いというのは、筋違いだよ」。
「確かにその通りなんです。なぜ、彼に電話して泣きついたのかは、自分でも理解不能。いったい何をやっているんですかね、私は。危うい自分の行動に辟易しています」