◆アルコール依存症になったママ友

マユミさんのように孤独から抜け出せたら幸いだが、ぬかるみにはまり込み、いっこうに這い上がれずもがき苦しむままの人もいる。

「かれこれ15年も親しくつきあってきたママ友・ミユキ(48歳・主婦)が、アルコール依存症になってしまったんです」と、サオリさん(49歳・主婦)は目を伏せながら語り始めた。

ミユキさんが昼夜かまわずお酒の匂いを漂わせ始めたのは、子どもが中学1年生だった約3年前。夫が、子どもの同級生の母親と不倫したことがきっかけだった。相手はシングルマザーで、ミユキさんの夫は「生活費は入れる」と言って、自分のサインを書き入れた離婚届を置き、家を出ていったという。

ショックを受けたミユキさんの行動は常軌を逸していた。不倫相手の自宅のポストにカミソリを入れ、職場も探し当て、「他人の夫を寝取る最低女はクビにするべきです」と社長に直訴。さらには、子どもの学校の校長に「夫を奪った女の子どもを、すぐに転校させてください」と懇願した。それらの「武勇伝」を、勝ち誇ったようにサオリさんに報告してきたそうだ。

「正直なところ、怖くなりました。でも、ミユキの無念はわかる。何より彼女の子どもはうちの子の親友です。両親の異変に戸惑い、家にいづらかったのでしょう、わが家に入り浸っていたんです。私と夫は、『子どもには罪がない。目を背けず、しばらく預かろう』と決めました」

とはいえ、苦労は絶えなかった。夜中、酔いの回ったミユキさんからの電話が鳴り響く。「子どもの声を聞かせて!」と泣き喚く彼女を「もう眠っているよ。私が話を聞くから、そっと寝かせてあげよう」と慰め、彼女が疲れて眠るまで、話に耳を傾ける日々が続いた。

そして半年前、警察から電話が。「ミユキさんが路上で酔って眠っていたところを保護しました。携帯電話の発信履歴にあなたの番号しかなかったため、連絡させていただいたのですが」と言うのだ。

「ミユキの両親はとうの昔に他界していて、きょうだいもなく身寄りがないのは知っていましたが、私にしか電話するあてがないほど孤独だったなんて……。夫とふたりで彼女を警察に迎えに行った帰り道、夫が彼女にこう言ったんです。『余計なお世話だったらすみません。僕もサオリもつきそうので、アルコール依存症の人たちのための自助グループに行きましょう。子どものためにも』。ミユキは、涙をぽろぽろ流し、何度も何度も頷きました」

現在、ミユキさんはお酒を断ち、救済団体に通っている。彼女の子どもは自宅に戻り、母親のサポートに尽力して家事の一切をこなしている。高校生活のかたわらバイトに勤しみ、給料日には必ずサオリさん宅を訪れて、「今後も母子ともに見捨てないでください」と菓子折りを渡してくるという。

「子どものほうが先に成長した感じですね。ミユキからは、今も3日おきに『私ってダメな人間。どうしたらいい?』といった電話がくる。『あなたは、子どもを立派に育てたよ。自信を持って』と私はいつでも答えています。今後もミユキ親子をずっと見守っていくつもりです」