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◆頭に500円玉大のハゲが!
19歳の若さで嫁ぎ、3人の子どもに恵まれたマユミさん(72歳・パート)。しかし子どもたちの独立後、定年退職して家にこもる夫とふたりきりの生活が始まると、息苦しさに耐えきれなくなり、62歳で離婚した。庭付き一軒家としばらく生活に困らない慰謝料を手に入れたが、晴れ晴れした気分を味わえたのは数週間だけだったという。
「夜、布団に入ると悪いことばかり頭に浮かび、すごく怖くなるんです。もし不審者が入ってきたら? 急に具合が悪くなったら? 災害が起きたら? 寝つきが悪く、眠れても少しの物音で目が覚めてしまい、睡眠不足に陥りました」
マユミさんは、眠れない時間、子どものなかで唯一独身の次男にメールを送り、不安な気持ちを吐露した。次男は「いざとなれば、俺が飛んでいくよ」などの優しい言葉を返し、家具の移動や洗車など、男手の必要な仕事を頼めば、暇をみて駆けつけてくれた。ところが、半年もすると「仕事が忙しい」を理由に、メールの返信も用事を担ってくれることも、徐々に減っていったという。
「次男には次男の生活がある。それも致し方ないと思いました。でも、寂しさは押し寄せてくる一方で……。料理が好きだったけれど、作るたび昔の和やかな家族の食卓が思い出されてつらい。次第にカップ麺とレトルト食品しか口にしなくなりました」
そんなある日、頭に500円玉大のハゲを見つけ、円形脱毛症になっていることに気づく。医者から処方された薬を飲んでも、治るどころか数も増え、あれよあれよという間に、カツラが欠かせなくなってしまった。
その事実を伝えると、次男はすぐに顔を出してくれた。マユミさんはすがる思いで頭を晒し、「これが治るまででいいから、一緒に住んでほしい」と哀願した。ところが、次男の返事はあっさりNO。「全面的に頼られても困る。そもそも自分の意思でひとりになったんでしょ? ひとりだからこそ楽しめるものを見つけて、前向きに生きて」と言ったのだ。
「ああ、子どもってあてにならない存在なんだ、と思い知らされました」
目の前が真っ暗になったマユミさんに一筋の光をもたらしたのは、昔の友人からの「夫が亡くなり、ひとりになってしまった」という一本の電話。寂しさを共有できる人間に巡りあい、ホッとする自分がいた。以降、その友人とお互いの家を行き来しては食事をともにし、不安を吐き出しあうように。
「心が少しずつ軽くなりました。『おいしい』と食べてくれる人ができたので、再び料理が楽しくなって。髪の毛も、無事生えてきたんですよ」