若者にウケるだろうと無理に使うのは違う

金田一 面白い話があって、昭和41年にビートルズが来日したときの古い映像に、彼らが泊まっているホテルの前で夜中までたむろしている不良少女たちに「誰のファン?」と、インタビューするシーンがあるんです。そのとき彼女たちは、「なんていうのかしら、やっぱりポールだわ」って答えていた。(笑)

酒井 ええっ! 不良の言葉遣いとは思えない。(笑)

金田一 いまとなってはなんとも上品に聞こえますよね。でも、「かしら」「だわよ」という女言葉が、当時の女性にとっては流行している言葉だったということです。

酒井 なるほど。わが家では、昭和15年生まれの母が「かしら」「だわ」を使っていたので、私にもその言葉遣いが沁み込んでいるのかもしれません。

金田一 昔はよく「自分の言葉で語りなさい」なんて言われたけれど、酒井さんにとっての自分の言葉は「女言葉」ということですか?

酒井 自分の根っこにあるのは、女言葉も含んだ「昭和語」なのだと思います。

金田一 68歳の僕もたまに、「うざいよ」なんて言いたくなることはあるんです。「ぴえん(ちょっとした悲しさ、嬉しさを表す)」も「ぱおん(感極まって泣きそうな様子)」も、その言葉でしか気持ちを表現できないと思うのならば使ってもいいけれど、若者にウケるだろうとか思って、無理に使うのは違うんじゃないでしょうか。そもそも言葉は、他人との付き合いをうまくやっていくためのものですから。

酒井 なるほど。必要以上に若者におもねらず、「昭和の人なんだな」と思われながら生きていく覚悟が少し固まった気がします。

金田一 通じないのは困るけど、互いに使っていて気持ちがいい言葉が一番ですよ。