「私はどうなるのかな?」と考えていたある日のこと。中央線の車窓からぼんやりと景色を眺めていたら、そろそろ下車だという頃になって沿線の空き地で子どもたちが元気いっぱいに駆け回っている光景が目に飛び込んできたのです。

なんて希望に満ち溢れているのだろうと感動して、手帳に「子どもたちが空に向かい両手を広げ」と書き留めました。そう、「異邦人」はもともとシルクロードではなく、中央線沿線の歌だったのです(笑)。しかも最初は「白い朝」という曲名でした。

「白い朝」を提出して短大最後の夏休みを過ごしている間に、この曲は意外な展開を迎えました。当時、CBSソニーではジュディ・オングさんの「エーゲ海のテーマ~魅せられて」が爆発的にヒットしていて、チーフプロデューサーが「エーゲ海の次はシルクロードブームが来る」と言い切っていたのです。そして、大手家電メーカーのトップの方が「白い朝」に興味を持っていて、CMに起用したいと言っているとも……。

半信半疑ながら、中央線から中央アジアまでの空想の旅がはじまりました。父の単身赴任先であるテヘランから届いた絵葉書やトルコ石、それから書店の店先でめくった本や写真集。そうして手直しを重ねた「白い朝」は、チーフプロデューサーの発案で「異邦人」と改題され、曲には大胆なアレンジが施されました。

オリエンタルムードたっぷりのあの壮大なイントロを聴いたときは、「えー、こんなにしちゃうんだ」と、本当に驚きましたね。「異邦人」に改題すると聞いたときは、「異邦人って何?」と思って、見知らぬ人という意味なら、せめて「ストレンジャー」と英語にしてはと提案したのですが、アジアな感じを強調したいからと却下されてしまいました。

79年10月に「異邦人」でデビューし、曲の発売と同時に、アフガニスタンで撮影されたカラーテレビのCM曲として放送されました。すると「異邦人」は突如として売れ始め、たちまちヒットチャートにランクイン。さらに、80年の春に始まったNHK特集『シルクロード』の放映が引き金となり、本当にシルクロードブームがやってきたのです。