「自分の人生は支離滅裂だと思っていたのに、バラバラだったパズルのピースを時系列に並べて俯瞰してみたら、ちゃんとつながっていた。」(撮影:本社写真部)
オリエンタルなムードに溢れた「異邦人」がテレビのコマーシャル曲として放送され始めると、一躍ヒットチャートに躍り出た。しかし、突然の変化に心がついていけず……。大ヒット歌手が直面した苦悩と、その後の人生とは(構成=丸山あかね 撮影=本社写真部)

遠回りにも意味があった

「異邦人」でデビューしたのは40年も前のことです。当時は21歳だった私も還暦を迎えました。あの頃、私の歌を聴いてくださっていた方々に「みなさん、お元気ですか?」とお伝えしたい気持ちです。きっといろいろなことがあったでしょう。

私の人生にもさまざまな変化がありました。久保田早紀から久米小百合へと名前が変わったのは、芸能界を引退して本名の久保田小百合に戻り、結婚してさらに苗字が変わったからです。子育てに奮闘していた時期もあります。母との死別という悲しい出来事も経験しました。

今でこそ、教会などで音楽を通じて聖書を伝える音楽伝道者として活動していますが、クリスチャンになったのはデビューしたあとのこと。わが家は仏教で、なかでも同居していた父方の祖母は熱心な仏教徒という家庭環境だったので……。

一体何があったの? そもそも、どうして芸能界を引退したの? という声が聞こえてきそうです。理解していただけないだろうという気持ちから封印していたこともあるし、芸能界の裏事情は言えないと口を閉ざしていたこともありました。

でも心の奥では、時期が来たら胸の裡を明かしたいと思っていたのでしょう。周囲の方から、還暦の節目に自叙伝を発表してはどうですかと勧められ、2019年の3月に出版した本のタイトルは『ふたりの異邦人』。いかにも意味深なタイトルですよね(笑)。でも私としては、スッキリしました。

自分の人生は支離滅裂だと思っていたのに、バラバラだったパズルのピースを時系列に並べて俯瞰してみたら、ちゃんとつながっていた。遠回りしたなと思っていたことにも意味があったのだと気づくことができました。運命というのは不思議ですね。どこにたどり着くかわからない。でも舵をとっているのは、他でもない自分なのです。