「政治という談合の世界を見ているからこそ、文学の世界だけはフェアで純粋であってほしいという、ちょっとナイーブな、願いのような声が聞こえてきます」(豊崎さん)撮影:川上尚見

芥川賞選考委員の顔

豊崎 一方で、石原さんは文学賞受賞者を選ぶ立場でもあったわけです。代表的なのはやはり、95年下期から2011年上期まで務められた芥川賞の選考委員。その選評や芥川賞についての座談会での発言を読むと、どこか石原さんの強い本音が感じられるんです。政治という談合の世界を見ているからこそ、文学の世界だけはフェアで純粋であってほしいという、ちょっとナイーブな、願いのような声が聞こえてきます。

栗原 ご自身の作品が正当な評価を受けてこなかった、という思いもおありですか。

石原 ありますねえ。情実や談合のない、フェアな賞であり続けてほしいと思います。特に新人賞である芥川賞には。

豊崎 最近の新人で、これは! と思うような作家はいますか?

石原 うーん、難しい。最近の若い人は総じて貧乏性だなと思いますね。贅沢を書く勇気がないというのかな。何も太陽族やれっていうんじゃなく、自分の身の丈にあった贅沢を書けばいい。たとえば西村賢太が『苦役列車』で、いつもの軍手よりちょっといい、ゴムいぼ付きの軍手を買うか迷う、というような、労働者なりの贅沢を書いたでしょう。ああいうものが非常に大事で。

豊崎 ええ、それはわかります。

石原 小説におけるそういうフェティシズムってとっても大切でね。やっぱりフェティッシュをやろうと思うなら、金をかけるべきなんですよ。最近の作家にはそれがないね。