映画出演の経緯は

豊崎 実際に、失敗したと思うことはあったんですか?

石原 それはありますよ。わりとおっちょこちょいなところがあるんで。たとえば篠田正浩監督の映画『異聞猿飛佐助』。霧隠才蔵役で特別出演したけど、僕が出たのは最後のワンカットだけ。ラストシーンで死闘を生き延びた猿飛の前に、サーッと霧が晴れると、僕が現れる。

中田耕治の同名小説が原作の忍者映画『異聞猿飛佐助』(1965年、松竹)に霧隠才蔵役で出演したときの石原さん(左)。いちばん右が篠田正浩監督


栗原 その映画、僕、探して観ましたよ。ソフト化されていなかったんですけど(現在はDVDで入手可)、中国の怪しいサイトにあって(笑)。キャストに石原さんの名前があったから観たのに、いっこうに出てこない。本当に最後の最後になっていきなりバーンと。

石原 そうそう。それなのに「特別出演・石原慎太郎」って派手に出るでしょ。こわごわ映画館へ観に行ったら、案の定、客が僕の場面で「なんて勝手なことをしてやがるんだ」と大笑いしてさ。僕もつられて自分で笑っちゃったね。

栗原 僕も笑ってしまいました。

石原 ねえ。「最後さらっていい気になりやがって」ってなもんだよね。

栗原 僕が不思議だったのは、市川崑監督の『穴』(*1)です。石原さん演じる青年作家が、小説が書けなくなったと言ってクラブ歌手に鞍替えして歌を歌い出す、という。

石原 「Dream」という曲、あれも僕が自分でつくった。つまらん歌だけどね。

栗原 そうだったんですか! 誰の曲かわからなかったんですよ、どこにもデータがなくて。当時の『キネマ旬報』に『穴』のシナリオが掲載されているんですが、石原さんが演じた青年作家役が空欄、配役未定になってて、どういうことだろうなと疑問に思ってたんです。

石原 それはね、僕が歌う場面で、「もう小説で売れなくなったから、歌手してるんですよ」っていう台詞があるでしょ。

栗原・豊崎 はい、はい。

石原 あれ、「小説家が映画界にしゃしゃり出やがって」という、僕への面当てだったんだよ。出演依頼してきたほうも、よもや本人が承諾すると思わなくて、最後までキャストを未定にしていたのでしょう。僕はわりあいそういうのは平気なんで、おもしろがって出てやったの。(笑)

*1 1957年、大映東京、市川崑監督。銀行横領事件に巻き込まれる女性記者を描いたコメディタッチのミステリー。京マチ子主演