『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(著:中村恒子・奥田弘美/すばる舎)

「ここからが人生最悪の日々の始まり」

先生は、「ちょっとくらいうまくいかないことがあっても気にしない。ご飯が食べられて安全に眠れる場所があるんやったら大丈夫や」とよく言っていました。これは戦中の厳しい時代を生き抜いた人ならではの言葉ですが、先生は戦後の人生も苦労の連続。しかし、力強く乗り越えたのです。

恒子先生は27歳の時にお見合いで出会った2歳上の耳鼻科医と結婚し、ほどなく2人の男の子に恵まれました。それを機に、「子育てを手伝ってあげる」という実の両親からの申し出で同居生活がスタートするのですが、先生いわく、「ここからが人生最悪の日々の始まり」だったそうです。

尾道からやってきたご両親は、家の実権を握ってやりたい放題。もともと無類の酒好きだった夫も、家庭への不満から派手に飲み歩くように。自宅のローンや生活費は恒子先生が一人で担うことになりました。親族からは「夫をないがしろにしている」と非難され、かといって家計を考えると仕事は辞められない。常時80人近い患者さんを受け持ちながら、必死に働く日々が続きました。

ご両親との同居は約10年で解消できましたが、夫の酒癖はさらに悪化。離婚を何度も考えたことがあるそうです。しかし、「親の都合で子どもの心を乱してはいけない。子どもたちの結婚式で夫と並んで挨拶するまでは夫婦でいよう」と決めて乗り越えます。夫婦関係に限らず、辛抱が必要な時はゴールや期限を定めておくと、つらい、しんどい気持ちが少し楽になる。それが困難を乗り越える秘訣だったようです。

結局、息子さんたちの結婚式に出席する頃には夫の酒量も減り、言動も穏やかに。「離婚はもうええか」という心境になったそうですが。