自ら手配した老人保健施設に入居
恒子先生は、自身の人生を「仕事を続けることも、親との同居も、離婚しないことも、そうすると決めたのはほかならぬ自分。自分で納得して始めたことをやりきっただけ」と振り返ります。
「人や仕事に期待して、思い通りに動かそうとするからつらくなるんよ。人間、諦めからスタートして、自分ができることをしていればなんとかなるもんや」とよく笑っていました。
出世欲も持たず、開業医にもならず、「家族が食べていければ十分」と、泰然と構えていらした恒子先生。私たちはつい「もっと人生を充実させたい」と今以上を求めがちですが、先生にはそういう欲が一切ないんです。
人間関係も来る者拒まず、去る者追わず。「多くの人と関われば関わるほど、価値観の合わない知り合いが増える」と、適度な距離を保っていました。そんなふうに余計なものをそぎ落として生きてきたからこそ、心穏やかに現役生活を全うできたのだと思います。
2004年に夫を見送った後は一人暮らし。現在93歳になる恒子先生は、2年前に自宅前で転倒し、大腿骨頸部を骨折したことをきっかけに現役医師としての職を辞しました。現在は、お子さんたちに頼ることなく自ら手配した老人保健施設に入居し、リハビリと療養の日々を送っています。
先生から届いたメールには「自分の老化していく姿を、息子、嫁、孫に見せたくなかった。彼らを困らせたくなかった。私の最後の希望、プライドかな? つまらない意地っ張りです」とありました。
私自身も、子どもに迷惑をかけない老後を望んでいますが、恒子先生のように潔く行動できるかどうかは自信がありません。本当に見事な生き方だと心から思います。