「作家の感性を働かせて題材を見つけにいってるわけじゃないんですよね。題材のほうが声をかけてくれるんだと思います。」(角田さん)

題材のほうが声をかけてくれる

中島 『タラント』も同じですよね。ウクライナ侵攻に私たちはとてもショックを受けているけど、報道されないだけで戦争や紛争は毎日起きている。『タラント』は世界中で常に戦争があり、常に難民キャンプがある現実を教えてくれましたから。

角田 作家の感性を働かせて題材を見つけにいってるわけじゃないんですよね。題材のほうが声をかけてくれるんだと思います。中島さんは、次回作でこういう題材を取り上げようとか、もう考えていますか。

中島 それはねぇ……実は言わないことにしていて(笑)。別に秘密主義とかそういうことじゃないんです。たとえば「ハワイを舞台にした小説を……」と編集者に言うと、「わぁ、私めちゃくちゃハワイが好きなんですよ」っていろいろな面白い話を聞かせてくれて盛り上がるじゃないですか。でもそのあとで、それ以上に面白い話が書けないような気がしちゃうんですよ。

角田 ちなみに私は、いま書きたいものがなくて、それに悩んでるんです。源氏物語を書き終えてから、書くのが苦しくなっちゃって。

中島 それって、やっぱり源氏の呪いなのかな。(笑)

角田 私、『タラント』を書いている途中で小説の書き方が変わったことに気づいたんです。以前の私はプロット派で、ストーリーを面白くすることに最も神経を使っていました。でも優れた小説は、そこに描かれている人間がいかにいきいきと生きているかなんじゃないかって考えるようになって。そんなこと、書いている途中で考えたこともなかったのに。