時代も小説も急激に変化している

中島 最近の若い女性作家たちは、女性に対する差別意識についても積極的に発言するようになりましたよね。

角田 「なにかおかしい」と感じたことを世の中に対して発言することが、以前よりタブー視されなくなっている気はします。ハラスメントに関する告発も、一気に噴出していますし。

中島 角田さんは若くして小説家デビューされましたけど、小説そのものの変化を肌で感じることはありますか。

角田 感じますね。昔の小説だと、たとえばゲイの人はみんなおねえ言葉で、口は悪いけど本当はやさしくて、おせっかい……みたいなステレオタイプのキャラクターで描かれることが多かった。でもいまはLGBTの概念が広まって、そんな表現を見たら「いつの時代の作品?」って思われるんじゃないかな。

中島 かつて女性作家はプライベートなことに興味を向けられたりして、大変そうだった。でもいまは「自分の性体験を赤裸々に書くのが女流作家だ」みたいな風潮もない。社会の変化に伴って、小説も変貌を遂げていますね。

角田 私と中島さんは同時期に新聞紙上で連載をしていましたが、新聞小説は現実の事件と不思議に繋がり合うようなことがありますよね。村上龍さんが『イン ザ・ミソスープ』を連載していたとき酒鬼薔薇事件が起こり、藤沢周さんの『オレンジ・アンド・タール』のときには、高校生の自殺という内容とリンクするように若い自殺者が出たと記憶しています。中島さんの『やさしい猫』の連載時には、愛知県の名古屋入管所で、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが衰弱していたのに放置され、亡くなって大きな社会問題に発展しました。