第26話からの東京編でも忖度の欠落は変わっていない。第59話。暢子は幼なじみで東洋新聞記者の青柳和彦(宮沢氷魚)とその同僚で婚約者の大野愛(飯豊まりえ)が路上で抱擁する場面に遭遇してしまう。ラブシーンである。他人が見てはならない。だが、暢子はあろうことかその場に立ち尽くし、ずっと見ていた。ちなみに愛は暢子の友人でもあった。

 第70話で和彦は愛に対し「全部なかったことにしてくれ」と告げ、別れる。その直後、和彦は暢子にプロポーズ。やがて暢子も快諾した。和彦の不誠実には首を捻るばかりだったが、それより気になったのは暢子から愛へ謝罪や釈明がなかったこと。友人なのに。やはり忖度が出来ないのである。

「暢子は暢子のままで上等」

 暢子に共鳴しにくいのは視聴者側だけでない。登場人物たちも同じ。上京後の暢子に出来た同年代の友人は愛しかいない。その友情も損ねてしまった。愛は雑誌編集部に異動。暢子も愛のことを気にしている素振りはないから、もう2人が会うことはないのではないか。暢子の上京後の友人はゼロということになる。

 既に放送全体の約3分の2が終わったが、暢子が成長しているようには見えない。「共感されるヒロインの成長記」という朝ドラ成功のメソッドから見事なまでに外れている。

 ただし、この暢子の姿は脚本を書いている羽原大介氏(57)が考えた新しいヒロイン像に違いない。2007年に映画『フラガール』で日本アカデミー賞の最優秀脚本賞(共同脚本)を受賞したベテランの大家が、約1年がかりで書いた脚本なのだから。決して皮肉ではない。毎回、「共感されるヒロインの成長記」でなくても構わないだろう。