60代になり、あの日々を思い出し

関係を断ってから20年が過ぎ、60代になった私は、陽子さんとの日々を思い出すようになっていた。納得できずに関係を断ってしまったけれど、学生時代の楽しかった思い出までなかったことにはしたくない! こんな気持ちのまま何かあったら後悔する、と思い切って陽子さんの誕生日に「よかったら一度会いませんか」とカードを送ることにした。

身勝手なことを突然言ってきた、と困惑するかもしれない。でも、かつての濃密なつきあいを思えば、行動せずにはいられなかったのだ。しかし、陽子さんからの反応はなかった。あの日々を愛おしく思っているのは、私だけだったのだろうか。

そして去年、また陽子さんの誕生日が近づいてきた。ダメ元という気持ちで、再度バースデーカードを送ることにした。「会いませんか」とは書かず、人生の大事な時間を共有できたことへの感謝と、幸せを願っていることだけを書き留め、返事は諦めた。

ところが思いがけず、陽子さんから返事が届いたのだ。パソコンで打った文章には、「達筆な手紙が重かった。もう送らないでほしい」と書かれており、「P.S.この手紙を読んでも落ち込まないでね」と結ばれていた。上から目線の文章に、優しくて思いやりのあるかつての陽子さんはいなかった。

私は短いハガキを書くことにした。

「書きにくい手紙を書かせてしまい、ごめんなさい。でもおかげで、陽子さんの気持ちと、現在の人となりがよくわかりました。私も今はスッキリと清々しい気持ちです。乱筆乱文でごめんなさい」

こうして、私と陽子さんの約40年にわたる友情は本当に終わった。強がりでも負け惜しみでもなく、身も心も軽くなった思いだ。

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