「高齢者が働かないと日本の経済が回っていかない時代になっている」(撮影◎本社・中島正晶)

管理の仕事は、長い人生の一定期間

――『小さな仕事』というのは、具体的にどのような仕事を指すのでしょうか?

「たとえば、営業の方が再雇用で今までと同じ企業で働き続ける場合、給与水準が低下するのですから、営業としての成果はこれまでと同じでなくてもいいと思います。あるいは、定年後は会社を離れ、コンビニやスーパーの販売員さんやマンションの管理人さん、学校の警備員さんといった、いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事にシフトしていく。先入観にとらわれず、そうした社内外の多様な仕事を知ってほしいです。

もちろん、大企業の部長職などを務めた方がこうした仕事につくことは、最初は抵抗があるでしょう。でも、自分が成長していくことだけが仕事の意義ではありません。若いときは、競争に勝ち抜いて、高い給料を得ることを目標にするのもいいでしょう。その中で出世し、管理職になる。

でも、管理するという仕事は、長い人生の中の一定期間でしかない。私の研究のなかで、人は歳を取るにしたがって、誰かを支えるために働くことに意義を見出していく傾向があることがわかりました。

ヒアリングをした中に、75歳で看護師寮の管理人をしている男性がいます。この方は元防衛相の幹部職員で、現役時代は輝かしいキャリアを送られていた。でも今は、管理人の仕事が楽しくて一生懸命頑張りたいとおっしゃっている。歳を取った後に、そうした働き方があるのだと知ってほしいと思います」

 

――“生涯現役”とは言っても、若い頃と同じように働く必要はないのですね。

「ええ、公的年金が支給されるまでの60~65歳までの間はそれなりの収入を得る必要がありますが、年金が支給される65歳以降になれば、それほど稼ぐ必要もなくなります。

総務省の“家計調査“によれば、夫が定年まで会社員を務めた夫婦2人世帯の場合、公的年金の支給額が月額約20万円。家計の平均支出額は月30万円弱。つまり、65歳以降は年金に加えて月に10万円ほどの収入があれば、家計は十分に回るということがわかります。

夫だけでなく妻も働いて、それぞれが月10万円の収入を得れば、かなり豊かな生活を送ることも可能です。もちろん、自営業やパート、非正規で働いていた期間が長い方はその限りではありませんが…。

もし、月に10万円稼げばいいのであれば、週5日フルタイムで働く必要もありません。週3日でも、週2日でも、その時々の自分の体力や気力、またはそれぞれの生活環境に合った無理のない『小さな仕事』を選んでいけばいいと思います」