健康社会学者の河合薫さん(写真提供:河合さん)

50代女性は働くことに対して前向き

――河合さんは、これまで900人以上のビジネスパーソンにインタビューしてきたそうですが、60歳以降の働き方に関して、男女の意識に違いはあるのでしょうか?

「まったく違うと思います。男性の場合、40代にもなれば、自分が今いる会社で出世できるかどうかがわかってしまうので、その時点で仕事へのモチベーションが失せてしまう人が目立ちます。その結果、50代で“働かないおじさん”などと言われ、定年を迎える頃にはすっかりヤル気をなくしている人も珍しくない。

今回のアンケート結果でも、60歳以降に働く理由は“経済的な事情”が圧倒的。特に、男性の場合は“お金があれば働きたくない”と思っている人が実は多いのではないでしょうか。

それに対して、定年を間近に控えた50代の女性たちにはまだヤル気がみなぎっています。というのも、現在50代以上の女性は、どんなに優秀な人でも、結婚、出産という選択をすれば仕事を辞めざるを得ないケースが多かった。

つまり、20代後半から40代のある時期に、1度、自分のキャリアを手放して家事や育児に専念し、そこから再び仕事の現場に復帰してきた人が多いので、50代、60代になっても「まだまだこれから!」と、仕事へのモチベーションがV字回復しているのです」

 

――女性のほうが、60歳以降も働くことに前向きということですか?

「そう思います。もちろん、女性にとっても経済的な問題は深刻です。男性に比べて年金の支給額も少ないですし、長年、非正規やパートで働いてきた方も多いでしょう。特に、シングルの女性にとっては切実です。早めに専門家に相談するなどして、老後のお金の問題とはきちんと向き合わねばなりません。

でも、そんな状況でも、60歳以上も「自分のできることで社会の役立つことができれば、生きがいになる」「せっかくあるスキルを活かしたい」と、50、60代の女性はアンケートに答えています。50代のうちに勉強したり、何らかの資格を取って、定年後の人生に備えている人も多い。

私の周りにも、それまでの仕事の経験を活かしてキャリアカウンセラーの資格や、テーブルコーディネーターの資格を取った方がいます。自分で小さな会社をおこした方も。現在50、60代の女性は、途中でキャリアが分断された分、新しい仕事にシフトすることに抵抗感が少ないのではないでしょうか」