(イラスト:八木美穂子)
深夜の枕元で、暑い夏の昼下がりに、忘れていた命日に――。アレは何を知らせようとしていたのか

庭にあった鍬を渾身の力で持ち上げて

4歳の夏、私は毎日毎日、朝から日暮れまで外で遊んでいた。遊び相手は、町内に住む子どもたち。今では考えられないだろうが、親の付き添いなしに、子どもたちだけで自由に遊んでいた。当時暮らしていたのは、近畿地方の都市の外れに位置する村だ。私たち一家はこの地域に縁もゆかりもない新参者だった。両親が結婚後に移り住んだらしい。

その日は特に暑い日で、私は朝食を食べた後、神社に向かった。神社といっても、村の産土神(うぶすながみ)をお祀りしている無人の社で、手水舎もなければ、賽銭箱もない。狭い拝殿の扉は24時間開いていたので、暑さがしのげるこの神社が、子どもたちの遊び場所だった。

汗だくになって遊んでいたら、誰かの母親が「お昼だよ」と呼びに来て、いったん解散。家には、母と1歳の弟がいる。私はそそくさと昼ご飯を食べ、再び神社に向かった。

2時間ほど経っただろうか。突然背後から、

「家に帰れ」

と大人の男性の声がした。振り返ると、子ども以外は誰もいない。動きを止めて耳を澄ましたが、それっきり声が聞こえることはなかった。「帰らなければならない」。そう強く感じた。理由はわからない。そして、私はその気持ちに従って、「帰るね」と仲間に伝えた。強く引き留められたが、自宅へ駆け戻る。

息を切らして帰ると、2ヵ所ある家の入り口が施錠されていて、中に入ることはできなかった。これは、初めてのこと。私がいつ帰って来てもいいように、母が玄関と裏口は必ず開けておいてくれたからだ。

私はおもむろに、庭にあった鍬を渾身の力で持ち上げ、家の窓ガラスを叩き始めた。中に母と弟がいるという確信があったわけではない。自然にとった行動だった。

何度も何度も叩く。中から反応はない。しかし、その音を聞きつけた隣家のおばさんが、うちの敷地に入ってきた。

「ガラスが割れてしまうよ。どうしたの?」

「鍵がかかっていて中に入れないの」

そう私が告げると、おばさんは唯一鍵がかかっていなかった腰高窓を見つけ、私を軽々と持ち上げて、窓から部屋の中に放り込んでくれた。